「古民家は地震に強い」という声と、「古い家は地震に弱い」という声は、どちらもよく聞かれます。金沢市が町家向けにまとめた耐震のマニュアルによると、広く使われている一般診断法で調べた場合、壁がかなり多い家でない限り、伝統構法の家の多くは評点0.7以下と判定されます。一方で文化庁の手引は、大きく変形しても倒れにくい伝統的な木造建築には、限界耐力計算が適した診断方法だとしています。
伝統構法の家は、壁の強さで踏ん張るより、木組みの粘りで揺れを受け流す考え方で建てられています。地震に強いか弱いかの答えは、どの物差しで測るかで変わり、耐震補強の費用も同じ理由で大きく変わります。
以下では、揺れに粘るしくみと弱点、診断法の違い、費用の目安、補強の方法、2025年の法改正、2026年9月時点の補助金を順に見ていきます。自分の家の補強計画と見積もりを読み解く手がかりになるはずです。
第1章 古民家は地震に強い?伝統構法の家が揺れに粘るしくみと弱点3つ

伝統構法の家が地震にどう向き合う構造なのかを確かめ、その裏返しとして生じやすい弱点を3つ挙げます。
1-1. 貫・土壁・足固めで揺れを受け流す|釘や金物に頼らない伝統構法のしくみ
現在の耐震基準に沿った木造住宅の多くは、筋かい(柱の間に斜めに入れる部材)や構造用合板の壁と金物で、建物を固めて地震に耐えます。これに対し伝統構法(継手や仕口で木を組み、骨組みをつくる日本の昔ながらの建て方)は、揺れを受け流す考え方でつくられています。
揺れを受け止めるのは、主に次の部材です。
- 貫(ぬき):柱を横に貫いてつなぐ部材
- 土壁:土を塗って仕上げた壁
- 足固め:柱の足元どうしをつなぐ横材
- 仕口(しぐち):木と木を組み合わせる接合部
大きく揺れると、仕口で木がめり込み、土壁が少しずつ壊れながら建物が変形して、地震の力を吸収します。金沢市の『伝統構法木造建築物 耐震性向上マニュアル(町家編)』も、伝統構法の性能を測る物差しは「耐力」ではなく「変形」だとしています。
1-2. 柱脚・重い屋根・壁の少ない間取り|伝統構法の耐震性で弱点になりやすい3つの箇所
粘る構造にも、弱点になりやすい箇所があります。耐震の面で特に確かめたいのは、次の3つです。
- 柱脚:古民家に多い石場建て(柱を礎石の上に載せ、基礎と固定しない建て方)では、大きな揺れで柱の足元がずれることがあります。足元に腐れやシロアリの被害があると、この弱さはさらに大きくなります。
- 重い屋根:地震で建物にかかる力は、重さに比例して大きくなります。瓦と葺き土、茅などで屋根が重い家ほど、柱や壁の負担が増えます。
- 壁の少ない間取り:襖や障子で仕切る続き間は、揺れに抵抗する壁が少なくなりがちです。後の増改築で、壁や柱が抜かれていることもあります。
1-3. 能登半島地震で富山県内の住家被害は2万2千棟超|八尾町の観測点は震度5弱
富山県防災課のまとめ(令和8年5月27日時点)によると、令和6年能登半島地震による県内の住家の被害は計22,818棟です。内訳は全壊258棟、半壊809棟、一部破損21,751棟でした。県内の最大震度は5強で、富山市・高岡市・氷見市などで観測されています。
気象庁の報告では、富山市八尾町福島の観測点は震度5弱でした。被害の大半は一部破損で、倒壊しない揺れでも屋根や壁に傷みは出ます。古い家ほど、次の地震の前に状態を確かめる意味があります。
雪国の家では、屋根に雪が載った状態で揺れることも考えておく必要があります。雪の多い富山市八尾町に本社を置く中邑工務店のような地元の工務店では、雪の重さが加わった揺れまで前提にして、屋根と壁の補強を考えることになります。
第2章 伝統構法の耐震性は測り方で変わる|一般診断法・精密診断法・限界耐力計算の違い

伝統構法の耐震性は、どの物差しで測るかで答えが変わります。耐震診断の物差しと、評価が分かれる理由を順に見ていきます。
2-1. 上部構造評点とは|耐震補強の目標になる「1.0」と「0.7」の意味
耐震診断の結果は、上部構造評点(地震に耐える建物の力が、求められる強さの何倍かを表す数値)で示されます。判定の区分は、日本建築防災協会の診断法で次のように定められています。
| 判定 | 評点の範囲 | 富山県の説明(令和8年4月) |
|---|---|---|
| 倒壊する可能性が高い | 0.7未満 | ― |
| 倒壊する可能性がある | 0.7以上1.0未満 | 0.7以上は「大破はするが倒壊の危険性は低い」 |
| 一応倒壊しない | 1.0以上1.5未満 | 1.0以上は「倒壊の危険性が低い」 |
| 倒壊しない | 1.5以上 | ― |
同協会の質問・回答集によると、評点0.7は、大地震で一応倒壊しないとされる強さの**70%**を持つ状態です。耐震補強の目標は、多くの場合1.0か0.7に置かれます。
2-2. 一般診断法で伝統構法の多くが評点0.7以下と出る理由
一般診断法は、壁の量や配置、傷みの具合などから評点を求める方法で、多くの住宅を手早く診断できます。金沢市のマニュアルによると、対象には在来軸組構法などとともに伝統的構法も含まれ、太い柱や垂れ壁を耐震の要素とする「方法2」もあります。
ただし金沢市のマニュアルは、壁がよほど多い家を除き、ほとんどの伝統構法で評点0.7以下の診断になると記しています。この物差しで1.0以上を目指すと多くの壁を新設することになり、本来の間取りや意匠を失いかねないとしています。
富山県が費用を支援する耐震診断も、目視を中心とした一般診断法です。県は、結果にやや大きな誤差が含まれる可能性があると案内しています。一般診断法が劣るのではなく、伝統構法の粘りを数字に表しにくいという性格の違いです。
2-3. 限界耐力計算とは?「耐力」ではなく「変形」で安全を確かめる構造計算
限界耐力計算(地震で建物がどこまで傾いても倒れずにいられるかを、計算で確かめる方法)は、建築基準法施行令第82条の5に定められた構造計算です。地震で建物がどこまで変形するかを求め、損傷が生じない範囲と、倒壊しない範囲に収まるかを確かめます。文化庁の『重要文化財(建造物)耐震診断・耐震補強の手引』によると、2000年(平成12年)に新しい検証法として規定されました。
日本建築防災協会の診断法では、精密診断法2に「限界耐力計算による方法」があります。診断法は2025年改訂版が出ており、2012年版も当分の間使えます。
令和2年1月に文化庁がまとめた『伝統的建造物群の耐震対策の手引』では、限界耐力計算を変形能力の高い伝統的木造建築に適した方法としています。補強壁以外の方法も選びやすい反面、実施できる構造設計者が限られ、時間と費用もかかると指摘しています。
2-4. どの診断法を選ぶかで耐震補強の費用と工事の中身が変わる
一般診断法で評点1.0を目指すと、壁を増やす補強が中心になりやすくなります。限界耐力計算では、土壁や貫、足固めといった木組みの粘りも評価に入れて、補強を組み立てられます。
その代わり、調査と計算に時間と費用がかかります。どちらが安いかは一概にいえず、診断・設計と工事の費用の配分が変わると考えるのが実態に近いでしょう。
文化庁の手引は、内部を大きく改修する住宅に保有耐力診断法(精密診断法1)を使う例も挙げています。家の状態と改修の範囲に合った物差しを選ぶことが、最初の分かれ目です。
第3章 診断・設計・工事の3段階で見る、伝統構法の耐震補強費用の相場
伝統構法の耐震補強の費用を「診断」「補強設計」「補強工事」の3段階に分け、それぞれの相場の手がかりと、金額が動く理由を整理します。
3-1. 耐震診断の費用|富山県の支援では自己負担2千円〜6千円、伝統構法向けの詳しい診断は別枠
富山県の耐震診断の支援(2026年7月3日更新)は、昭和56年5月31日までに着工した、平屋か2階建ての木造一戸建てが対象です。この時期の建物は、1981年6月に改められる前の旧耐震基準で建てられています。対象の軸組工法には伝統工法も含まれ、診断費用の9割を県が補助します。
自己負担は、延べ280㎡以下なら図面ありで2千円・なしで4千円、280㎡超なら3千円・6千円です。申込みは一般社団法人富山県建築士事務所協会が受け付け、会員の設計事務所が診断します。
伝統構法の性質まで詳しく見る診断は、公的な支援の外で行われることもあります。例えば一般社団法人伝統構法耐震評価機構の「伝統耐震診断」は、古民家鑑定と床下の調査を含む報告書として**50万円(消費税別)**です。建物の近くの地面と2階の床に地震計を置き、わずかな揺れを同時に測る方法をとっています。
3-2. 補強設計の費用|限界耐力計算を使う設計に時間と費用がかかる理由
限界耐力計算を使う補強設計では、柱や梁の寸法、仕口の形、土壁の量、建物の傾きや傷みまで調べ、変形を計算して補強の位置と量を決めます。図面が残っていない古民家では、実測と図面づくりの手間も加わります。
2026年9月時点で、富山県と富山市は補強設計(富山市では「計画策定」)の費用の3分の2を、20万円まで補助しています。市の計画策定の補助は、同じ年度内に耐震改修の工事を行うことが条件です。
3-3. 補強工事費の目安|延べ面積と評点差から計算する日本建築防災協会の算定式
工事費の相場の手がかりになるのが、日本建築防災協会のパンフレット「耐震改修工事費の目安」(2020年3月版)です。1997年以降に自治体の補助を使った24,865事例がもとになっています。木造2階建ての耐震改修工事は100万〜150万円が最も多く、中央値は186万円とされています。
同パンフレットは、耐震診断を受けた木造2階建ての工事費の目安を、「17.4×(評点差×延べ面積)の0.53乗(万円)」という算定式で示しています。評点差は「改修後の評点−改修前の評点」で、改修後は1.0を目安にします。延べ面積ごとの目安は次のとおりです。
| 延べ面積 | 評点差0.3 | 評点差0.5 | 評点差0.7 |
|---|---|---|---|
| 150㎡ | 140万円 | 180万円 | 210万円 |
| 200㎡ | 160万円 | 200万円 | 240万円 |
| 250㎡ | 180万円 | 230万円 | 270万円 |
| 300㎡ | 190万円 | 250万円 | 300万円 |
※評点差0.7は、例えば改修前0.3の家を1.0まで上げる場合です。
これは在来工法を含む木造住宅全般の目安で、伝統構法に限った相場ではありません。石場建ての基礎のつくり直しや屋根の葺き替え、傷んだ部材の交換が加わると、目安から大きく外れます。同パンフレットも、建物の状況によってかなりのばらつきがあると注意しています。
3-4. 延べ面積が大きい富山の家で耐震補強の費用が膨らみやすい理由
算定式のとおり、延べ面積が大きいほど耐震補強の工事費用の相場は上がります。富山県耐震改修促進計画(令和8年3月改定)は、専用住宅1戸あたりの延べ面積が全国1位で、改修に費用がかかることを、耐震化が進みにくい要因に挙げています。
広い家では、家全体を一度に補強するのではなく、1階だけ、寝室まわりだけを先に守る考え方もあります。その選択肢は、第6章6-2で取り上げます。
第4章 土壁から柱脚まで|伝統構法の耐震補強の方法5つと費用が動く分かれ目

伝統構法の粘りを活かす補強の方法を5つ取り上げます。それぞれで費用が大きく動くポイントも確かめます。
4-1. 土壁・荒壁パネル・格子壁|変形に強い壁を足して建物全体の粘りを高める
壁が足りない家では、壁を足す補強が基本です。金沢市のマニュアルは、補強壁に湿式の土壁や乾式の土壁パネルなど、変形しても粘る材料を選ぶとしています。板壁や荒壁パネル(土壁に近い性質を持つ工場製の壁材)、格子壁も、十分な変形性能を持つ要素に挙げられています。
同マニュアルは、変形に弱い筋かいや構造用合板を採用しないとしています。一方で文化庁の手引には合板や金物の補強例もあり、一律に使えないわけではありません。固さの違う壁が混ざると揺れの力が一部に集まるおそれがあるため、変形のしかたをそろえて考えることが大切です。
費用が動く分かれ目は、湿式か乾式かと、壁を足す位置です。湿式の土壁は乾燥を待つ分だけ工期が延びやすく、建具や間取りの変更が伴えば工事の範囲も広がります。
4-2. 足固め・貫・差鴨居|柱どうしのつながりを取り戻す軸組の補強
金沢市のマニュアルは、石場建てで足固めや地長押(柱の足元を外側から押さえる横材)がなければ設置するとしています。新しくつくる壁の貫は、端を楔(くさび:木を打ち込んで接合部を締める部材)で留めます。
限界耐力計算では、長ほぞ(柱の端を長く加工して差し込む接合)や貫、差鴨居(柱どうしをつなぐ背の高い鴨居)、足固めも、地震に抵抗する要素として扱われます。木組みそのものが耐震の役割を担います。
費用が動く分かれ目は、床を開けて足元に手を入れるかどうかです。柱の根元が傷んでいて、その部分を新しい木に替える根継ぎが要ると、手間は大きく増えます。
4-3. 仕口ダンパーなどの制振装置|揺れのエネルギーを吸収して変形を抑える
揺れのエネルギーを吸収して変形を抑える方法が、制振(揺れを熱などに変えて小さくする考え方)です。文化庁の『重要文化財(建造物)耐震診断・耐震補強の手引』も、ダンパーなどの制震装置を使う方法を検討できるとしています。
ただし金沢市のマニュアルによると、仕口ダンパーは温度や揺れの速さで性質が変わるため、特性をよく把握して使う必要があります。費用が動く分かれ目は、装置の数と取り付ける位置です。
4-4. 屋根の軽量化|葺き土の撤去や屋根材の変更で地震の力そのものを減らす

地震で建物にかかる力は重さに比例するため、屋根を軽くすると、必要な補強の量を減らせる場合があります。葺き土を取り除く、瓦を軽い屋根材に替えるといった方法です。
国土交通省の「建築基準法の改正に関する質疑応答集」(令和8年8月6日時点)では、瓦を金属屋根に葺き替えるだけなら確認申請は不要とされています。ただし構造の安全性が明らかでない場合は、壁量計算や耐震診断などで確かめる必要があるとしています。
もともと葺き土のない屋根では、軽くできる余地が少ないこともあります(金沢市のマニュアル)。費用が動く分かれ目は野地板や垂木など下地の傷みで、雪国では積雪の重さも計画に加わります。
4-5. 石場建ての柱脚|足固めで活かすか、基礎を新設して柱と緊結するか
石場建ての柱脚の扱いには、大きく2つの考え方があります。礎石の上に柱を載せたまま足固めで足元を一体にする方法と、建物を持ち上げてコンクリートの基礎を新しくつくり、柱や土台を基礎につなぐ方法です。
建築基準法施行令第42条では、平屋建てで足固めを使えば土台を省略できます(特定行政庁が指定する軟弱地盤の区域を除く)。平成28年には、柱と基礎を緊結しない接合方法として、だぼ(柱に差し込む短い鋼材)を使う方法も国土交通省の告示で加えられました。2階建ての石場建ては、構造計算などで安全を確かめることになります。
基礎を新しくつくる方法は、建物を持ち上げる作業に地盤や基礎の工事が加わるため、費用が大きくなりやすいといえます。建築工事業と土木工事業の両方を事業内容に持つ中邑工務店のような工務店であれば、上の木組みと足元の基礎を、一つの工事として段取りできます。
第5章 2025年4月の法改正で変わった手続き|伝統構法の耐震補強で確認申請を見極める3つのポイント
2025年4月の建築基準法改正で、2階建ての木造住宅の大規模な改修には手続きが必要になりました。伝統構法の耐震補強で押さえたい3つのポイントを整理します。
5-1. 耐震補強工事でも「主要構造部の過半」に及べば確認申請が必要
国土交通省の質疑応答集によると、2階建ての木造一戸建て(新2号建築物)で2025年4月1日以降に大規模の修繕・模様替に当たる工事をすると、確認申請が要ります。耐震補強の工事も例外ではありません。主要構造部(柱・はり・壁・床・屋根・階段)のうち一つ以上で、過半に手を入れるかどうかが判断の基準です。
過半かどうかは、柱なら総本数、壁なら総面積に占める割合で見ます(国土交通省の解説事例集)。平屋で延べ200㎡以下の新3号建築物は、大規模な改修でも確認申請は不要です。部位ごとの判断は、[[古民家リノベーションで建築確認が必要になる部位の一覧]{.underline}](URL未定:記事格納/古民家_リノベーション_費用相場.md の公開URL)で整理しています。
5-2. 確認申請が必要になると、現行の規定がどこまでかかるか
確認申請が必要な工事では、原則として現行の規定がさかのぼって適用されますが、建築基準法第86条の7による緩和もあります。既存不適格(建てた当時は適法だったが、その後の法改正で現行の規定に合わなくなった建物)では、構造耐力上の危険性が増さない工事であれば、構造耐力の規定はさかのぼって適用されません。
伝統構法の家は、現行の耐震基準の仕様規定に合わない部分を多く持ちます。どの規定がかかるかで設計の手間と費用が変わるため、早い段階で確かめておきます。
5-3. 耐震改修促進法の計画認定で、確認済証の交付があったとみなされる仕組み
建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)の第17条には、別の手続きも定められています。所管行政庁から耐震改修の計画の認定を受けると、建築確認が必要な工事でも、確認済証の交付があったものとみなされます。
どの手続きを選ぶかは、補強の範囲と設計の方法で決まります。申請の図面を用意する設計者が早くから関わると、着工までの工程を組みやすくなります。
第6章 補助金で伝統構法の耐震補強費用を抑える|富山県・富山市の支援制度と申請の6ステップ
2026年9月時点の富山県・富山市の支援制度を、伝統構法の家が対象になるかという点から整理し、申請の順番を6つのステップで示します。制度の中身は年度で変わるので、最新の要件は各公式ページで確認が要ります。
6-1. 富山県の木造住宅耐震改修支援|工事費の5分の4・最大140万円、伝統工法も対象
伝統構法の家にとって最初に確かめたいのは、補助金の対象になる工法に自分の家が含まれるかどうかです。富山県の「木造住宅の耐震診断・耐震改修の支援制度」(2026年7月3日更新)は、対象を軸組工法の木造一戸建てとし、「伝統工法によるものも含みます」と明記しています。
ほかに、平屋か2階建てで、昭和56年5月31日までに着工した旧耐震基準の住宅であることが条件です。補助額は、改修工事の費用の5分の4(120万円まで)と設計の費用の3分の2(20万円まで)を合わせ、最大140万円です。工事の上限は、令和7年4月に120万円へ引き上げられました。
申込先は、住宅がある市町村の窓口です。富山県以外でも、多くの市町村が同じような耐震改修の補助金を設けています。
6-2. 家全体でなくてもよい|部分耐震改修・段階的改修・耐震シェルターという選択肢
富山県の制度は、家全体を補強する工事だけを対象にしているわけではありません。県の「耐震改修支援の概要と申し込み先」(令和8年4月)では、次の3種類の改修を支援の対象にしています。
| 改修の種類 | 補強後の目標 |
|---|---|
| 全体の耐震改修 | 建物全体の評点1.0以上 |
| 部分耐震改修 | 1階全体の評点1.0以上、または1階の主要な居室の評点1.5以上 |
| 段階的改修(簡易改修) | 評点0.7以上 |
部分耐震改修は、その住宅に住んでいる人だけが対象です。県の技術基準では、各階や建物全体の評点が改修前を下回らないことも条件になっています。
耐震シェルター(家の中に設け、倒壊から身を守る空間をつくる装置)には、費用の3分の2、上限60万円の補助があります。令和8年4月時点の実施は高岡市・射水市・氷見市・小矢部市・朝日町の4市1町で、耐震ベッドは対象外です。後で改修の補助を使うと、その上限からシェルターの補助額が差し引かれます。
寝る部屋から、1階からという順番で考えると、3-4で触れた広い家でも、限られた予算で手を付けられる範囲が見えてきます。
6-3. 富山市の制度は「在来軸組工法」が対象|伝統構法の家は申請前に確認が必要
2026年8月5日更新の富山市の支援事業は、工事の費用の5分の4(120万円まで)と、計画策定の費用の3分の2(20万円まで)を補助します。全体の耐震改修を「まちなか」「公共交通沿線居住推進補助対象地区」で行う場合だけは、工事の上限が150万円です。
注意したいのは、対象の工法です。富山市の案内と交付要綱は、対象住宅を「在来軸組工法によるもの」とし、伝統構法には触れていません。県と書き方が違うため、伝統構法の家が対象になるかは、申請前に市の窓口への確認が欠かせません。
富山市の要綱には、代理受領(補助金を事業者が受け取り、施主は工事代金との差額だけを支払う仕組み)の規定もあります。国費が入っているため、他の補助金とは原則として併用できない点にも注意が必要です。
6-4. 着工前の申請から年度内の完成まで|耐震補強の補助金を使う6ステップ
富山県は、工事の前に必ず市町村の窓口へ相談するよう案内しています。富山市の要綱もあわせると、補助金を使う耐震補強はおおむね次の順番で進みます。
- STEP1 事前相談:市町村の窓口で、対象の工法や今年度の受付状況を確かめます。
- STEP2 耐震診断:診断を受け、改修前の評点を知ります。
- STEP3 補強の設計:補強の方法を決め、補強後の評点が目標に届くかを確かめます。
- STEP4 交付申請:工事の契約・着工の前に申請します。富山市では、建築士による耐震診断と、改修後の総合判定の書類が必要です。
- STEP5 契約・着工:交付決定を受けてから、契約を結んで着工します。
- STEP6 完成と実績報告:工事を終えて報告し、補助金を受け取ります。富山市では交付決定の年度の2月末までに完成させます。
申請するのは施主本人で、設計者や施工者が作る図面や見積書は、その書類の一部になります。富山県の断熱改修の補助(富山型高性能住宅推進事業費補助金)も耐震性の確認を条件にしているため、断熱と耐震は同じ時期に計画すると進めやすくなります。
6-5. 耐震改修の減税|所得税の控除と固定資産税の2分の1減額
耐震改修には減税の制度もあります。国税庁の案内(令和8年4月1日現在の法令等)によると、令和10年(2028年)12月31日までに一定の耐震改修をすると、所得税の控除を受けられます。控除額は、標準的な工事費用相当額(上限250万円、補助金を差し引いた額)の10%などです。
固定資産税の特例も、国土交通省が公表した令和8年度の税制改正の資料によれば、令和13年(2031年)3月31日までに延びました。対象は昭和57年1月1日の時点で建っていた住宅で、おおむね旧耐震基準の時期にあたります。補助金を除いた費用が50万円を超える耐震改修なら、工事を終えた翌年度の税額が2分の1になります。
第7章 伝統構法の耐震補強を任せる工務店・設計者の選び方4つ
伝統構法の耐震補強は、診断・設計・施工・手続きのどこかが欠けると、費用にも仕上がりにも響きます。依頼先を見る4つの視点を挙げます。
7-1. 採用する診断法と、その理由を説明できるか
一般診断法、精密診断法、限界耐力計算のどれを使うのか、なぜその方法なのかを、家の構造と結びつけて説明できるかを確かめます。補強後の目標を評点1.0に置くのか、0.7の段階的改修や部分改修にするのかという考え方も、あわせて聞いておきたい点です。
7-2. 限界耐力計算を行える構造設計者と組む体制があるか
文化庁の手引が指摘するとおり、限界耐力計算を適切に行える構造設計者は限られます。計算を誰が担い、結果が補強の図面や施工手順にどう反映されるのかは、契約の前に確かめたい点です。
7-3. 土壁・貫・足固めを扱える大工が施工に入るか
変形する力を活かす補強は、継手や仕口、土壁を扱う技術が前提です。計算で決めた補強が、現場の木組みにそのとおり納まるかどうかは、施工する職人の手にかかっています。
古民家再生のこだわりの一つに「伝統を守る技術」を掲げる中邑工務店のような工務店であれば、土壁や貫を残したまま補強材をどう納めるかを、施工の側から検討できます。
7-4. 補助金の申請と着工の順番を、工程表に組み込めるか
交付決定の前に契約・着工すると、補助金の対象から外れます(6-4)。診断から完成までの日付が、年度内の完成(富山市は2月末)から逆算して工程表に入っているかを確かめます。代理受領を使う場合は、請求と支払いの流れも契約前にそろえておきます。
第8章 耐震補強の費用と工事について、伝統構法の家で寄せられる4つの疑問
伝統構法の古民家で耐震補強を考え始めたときに出やすい4つの疑問に答えます。
8-1. 「耐震補強をせず、耐震シェルターだけで済ませてもよいですか?」
耐震シェルターは命を守る空間をつくる装置で、建物そのものの耐震性は上がりません。家全体の補強が費用や工期の面で難しいときの、選択肢の一つです。富山県では補助を行う市町村が限られるため、住まいの市町村で確かめます。
8-2. 「限界耐力計算で診断した場合も、補助金は使えますか?」
日本建築防災協会の診断法では、限界耐力計算による方法は精密診断法2に含まれます。富山市の要綱も、補助の前提となる診断を「一般診断法又は精密診断法」と定めています。ただし限界耐力計算による評価の扱いは制度ごとに違うため、診断を頼む前に窓口で確かめておく必要があります。
京都市の「まちの匠・ぷらす」のように、京町家の耐震改修で、限界耐力計算による診断を前提とした補助を設ける例もあります。
8-3. 「1階だけ、寝室まわりだけの耐震補強でも意味はありますか?」
富山県の部分耐震改修のように、公的な制度でも、1階や寝る部屋の安全を先に高める補強が位置づけられています。
ただし、補強した部分とそうでない部分の強さに差がありすぎると、揺れ方が偏るおそれがあります。県の制度でも、各階や建物全体の評点が改修前を下回らないことが条件になっています。
8-4. 「瓦屋根を軽い屋根材に替えるだけでも、耐震補強になりますか?」
建物が軽くなれば地震の力は小さくなりますが、壁や接合部が弱いままでは十分とはいえません。どの程度の効果があるかは、耐震診断で確かめる必要があります。屋根材を替えるだけなら確認申請は不要ですが、構造の安全性が明らかでない場合は確認が求められます(4-4)。
第9章 全部か、何もしないかではない|伝統構法の耐震補強を段階で考えるために

富山県耐震改修促進計画(令和8年3月改定)によると、現行の耐震基準を満たす住宅の割合を示す県内の耐震化率は、令和5年時点で約84%で、耐震性が不十分な住宅は約6万3千戸と推計されています。県は令和17年度末に95%を目標とし、1階だけ、主要な居室だけ、評点0.7までの改修も支援の対象にしています。費用がそろうまで何もしない以外の道が、制度の側にすでに用意されているということです。
伝統構法の耐震補強は、低い段から順に考えられます。耐震シェルターで寝る場所を守る段、1階や主要な居室の評点を上げる部分改修の段、評点0.7までの段階的な改修の段です。
いちばん上の段が、建物全体を評点1.0以上にする補強です。段が上がるほど、診断法の選び方、土壁・足固め・制振・屋根の軽量化の組み合わせ、補助の対象工法や確認申請の要否が、費用の相場を左右します。
伝統構法の家の耐震補強と、八尾で続く株式会社中邑工務店の仕事
株式会社中邑工務店は、古民家再生のこだわりの一つに「持続可能な建築」を掲げ、長く住み継がれる住まいづくりを目指しています。耐震補強は、今ある建物を次の世代まで使い続けるための工事でもあります。
古民家再生では、古民家の魅力を残しつつ、耐震補強や断熱材の導入を行っています。事業は住宅の新築やリフォーム、外構工事から、建築工事業・土木工事業にまでわたります。本社を置く富山市八尾町で開業したのは、昭和45年(1970年)です。
長い年月の揺れを受け流してきた木組みは、補強の段を一つ上がるごとに、次の地震にも粘れる骨組みへ近づいていきます。
